高エネルギー物理学研究所(当時)放射光実験施設(KEK/PF)の依頼を受け、世界最高性能を目指す軟X線用分光器の設計製作に取り組んだ期間は約6ヶ月。秋山らが図面製作に要した時間は約2ヶ月だった。
「図面は1,500枚くらいになりましたね。今回の分光器は回折格子の回転精度を高めるのがポイントでした。といっても、一つ一つの機械の設計上の問題には慣れていますからそう大変ではないんです。それより、仕様が決まるまで,設計の大枠が決まるまでにかなりの時間をとられ、ゴーがかかったとたん納期に間に合わせるために一気呵成に作業を進めなくてはいけないという時間的な制約のほうが厳しかったかな。前段で時間がかかればかかるほど、製造部門に負担がかかってしまうんです」
設計を担当した秋山は、そういって丸山たち製造部門を気づかう。その丸山は、「このときは始めて、リーダーとして一人で据え付けに行きましたからとても緊張しました。全長24mに及ぶ分光器を、とにかく正確に並べることが大変でしたね。今回は時間がなくて、通常は2週間くらいかかるところを1週間でやりました」
と振り返る。振り分けミラーから入射スリット、前置ミラー、グレーティングチャンバー、出射スリット、後置ミラーにいたる全長20m以上もの長い長い分光器を、狭いスペースに、5〜6m先で0.1mm、全長で1mmの狂いもないように並べるというのは気の遠くなるような作業だ。「何しろ、計測器を置く場所もないくらいのスペースで、高さを測るのも一苦労でしたからね。でも、難しくて苦しい作業だった分、組み上げたときの達成感は格別です」
そんな丸山に、「最近は安心して任せておけるようになったね」と秋山。
「KEK/PFに最初の分光器を納入したのはもう15年も前のことです。私自身、初めは光学のことは何も知らず機械屋の目で見ることしかできませんでした。何台か設計していくうちに実際の光学的な目的も多少は分かるようになって、研究者の理論をメカ的見地から最適化していく作業ができるようになりましたね」
理論上ではどんなに小さな単位の動き、制度も実現可能だが、現実のメカではそれらを検証すること自体が無理なことも多い。そんな数値を仕様段階で要求されることもある。
「そんなときは、『目標としてやりましょう』と答えておくんです(笑)。長いお付き合いですから、最近では『秋山さんがやってくれるなら仕様書は簡単でいいよね』と言われるようになって、信頼されていることをひしひしと感じますね。その分、こちらも技術で答えなきゃと気合が入ります」
その言葉どおり、秋山が設計した分光器は納入するたび達成精度を自己更新中だ。今回納入した軟X線分光器は、その性能が格段にアップ。さらに、その立ち上がりの早さが研究者たちを驚かせた。つい先日据え付けが終了したばかりにもかかわらず、最近の国際学会で発表されて<世界一の分解能>と認定されたという。
満足するデータが出るまで、みんなで徹夜の作業をしたこともあった。研究者の理想をかたちにしていく仕事は、どんな苦労も大きな喜びに変えていく。
「設計段階の打合せから据付、調整まで全工程に関われるのは魅力です。もちろん、その過程ではひやめきや応用力も要求されますが、これらはまた、経験を積み上げていくなかで身につくものだと日々教えられています」と丸山。
ベテランの仕事ぶりを間近で見ることで、若い丸山たちの技術も育つ。こんなところにも、トヤマ特有の絶妙なコンビネーションが息づいている。

■分光器の心臓部を形成するグレーティングチャンバー
内部にマウントされたグレーティング(回折格子)を最小ステップ0.007秒(100万分の2度)で回転させる超精密なメカが組み込まれている。
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